アユの頭に入っている耳石を使った「日齢査定」によって,アユが生まれてから何日間生きてきたのか(日齢),さらに採捕した日付から遡って,このアユがいつ生まれた(孵化した)のか,試行的に調べました.調べたアユは3尾.いずれも,毎年アユの産卵場になる場所の近くで10月14日に採捕されたアユです.そのうち2尾は色づいた(サビた)産卵間近のアユで,もう1尾はまだ産卵まで時間のかかりそうなサビのないアユでした.結果は以下の通りでした!

アユ親魚の日齢査定の注意点

まず注意しておきたいのは,産卵間近のアユの場合,推定した日齢と実際の日齢の間には最大で30日程度のズレが生じる可能性があるということです.ズレの方向は過小評価―すなわち実際よりも若く見積もってしまう可能性があります.これは,産卵が近づいてくると成長が鈍くなって,耳石に刻まれる日輪(輪紋)が不鮮明になったり,耳石が分厚くなったりして,輪紋を読み取りにくくなることが原因です.それを踏まえて,推定孵化日を見る必要があります.

推定された孵化日

推定孵化日は最も早いアユで昨年12月5日,次いで12月22日,最も遅いアユでは年が明けてからの1月23日でした.上述の最大誤差(30日のズレ)を加味すれば,それぞれザッと11月5日~12月5日,11月22日~12月22日,12月23日~1月23日の間に孵化したと考えられます.

長良川のアユを昔から見てきた人であれば,随分と遅くに生まれたアユだなぁ,と感じるはずです.どんなに早いと見積もっても11月5日生まれのアユが1尾.それは誤差MAXで考えてのことですから,実際にはもっと後に孵化した可能性が高いです.最も大きなアユは明らかに11月下旬以降の生まれ.これから産卵準備に入っていきそうな最小サイズのアユに至っては,おそらく年の明けた1月に孵化したと思われます.

近年の長良川では,産卵のピークが10月下旬以降となっています.文献や漁師さんらの話から推察すると,1960年頃に比べて約1ヵ月遅くなっているようです.そして,今回調べた3個体は,その近年の産卵ピーク(10月下旬)よりも後に産卵され,孵化したと考えられるのです.産卵から孵化まで概ね1~2週間程度かかります.それを加味しても,少なくとも2尾は明らかに例年のピークより遅くに産卵されたと見られます.

孵化日が遅い理由

さて,なぜこのようにアユの産卵・孵化が遅くなってきているのか?これには少なからず温暖化が関係していると考えています.アユの産卵に適した水温は12~20℃です.また,産卵のために上流から川を下ってくるタイミングにも水温の低下が関係していることが別の検討で分かってきています.つまり,温暖化で川の水温が上がり,秋になってもなかなか水温が下がらなくなると,産卵のための降下行動も,産卵自体も遅れるということです

温暖化によるアユの生活の変化は,漁師の長年の経験から培われてきたアユ漁のタイミングなどに「くるい」を生じさせます.今後は,この「くるい」を予測し,温暖化の影響に賢く対応していく必要があるでしょう.