1876年(明治9年),伊藤圭介氏によって書かれ文部省から出版された『日本産物志・美濃部』に,長良川のアユが紹介されています.その冒頭で,以下のように4つのアユの名称と出典が書かれているのですが,出典の詳細な情報は書かれていません.ここでは,各名称の背景をイメージできるように,出典の詳しい情報をまとめておきたいと思います.
アユの名称(出典)
1.細鱗魚(日本紀)
2.年魚(賦役令,延喜式)
3.鮎魚(和名抄)
4.香魚(雨航雑録)
1.細鱗魚(日本紀:720年)
日本紀―すなわち日本書紀のこと.奈良時代に国が編纂した歴史書(正史).
2.年魚(賦役令,延喜式:7世紀後半~9世紀頃)
賦役令(ぶやくりょう)は,律令国家時代の法律である「律令」の中で,物(調・庸)による租税や肉体労働の課役などを規定したもの.
延喜式(えんぎしき)は,律令の施行細則をまとめた法典.
3.鮎魚(和名抄:930年代)
和名抄(わみょうしょう)は,「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」の略称.平安時代に作られた辞書.
4.香魚(雨航雑録:1549年~)
雨航雑録は,中国明時代(1368~1644年)の文人・馮時可(1549年生まれ)の随筆.
まとめ
国として初めて日本が本気で編纂した歴史書(日本書紀)では「細鱗魚」として登場するが,法律(律令)・公的には「年魚」と書かれた.しかし,既に平安時代(930年代)の辞書では「鮎魚」が取り上げられていることから,一般には,かなり古くから「鮎」が浸透していたのかもしれない.
鮎の香りを愛でた名称として使われる「香魚」は中国の名称に由来する.